災害リスクから見る 賃貸VS持ち家論争

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災害リスクをしっかりと伝えたい

「家は、買うなら、災害リスクを徹底的に調べてほしい」

ただこの一心で書きました。

 

2017年台風21号、2018年台風21号、2019年台風19号。

大規模停電、道路の陥没、土砂崩れ、河川堤防決壊による浸水被害が毎年発生しています。

 

私は、2017年4月~2019年3月まで2年間、都道府県庁の土木事務所に勤めていました。

2017年と2018年の台風21号の際は、現場で被害対応にもあたりました。

大きな被害を目の当たりにした経験から、感じたことを伝えたいです。

 

そこで、災害リスクから見る持ち家のリスクについて本気出してまとめました。

不安をあおるためではなく、リスクを正しく怖がり、持ち家購入についてどうするか考えるための記事です。

<長文・固い・小難しい>の三拍子そろった文章ですが、楽しみのはずの持ち家購入によって不幸になる人が減るよう、一人でも多くの方に読んでほしいです。

結論:基本は賃貸。持ち家は適切なリスク把握を

子どもも生まれて手狭になってきたからそろそろ家を買おうかな。。
でも最近災害続きで、持ち家はリスク高そう。。

「賃貸VS持ち家どちらが得か」の比較はよくありますが、ここでは、「災害」を全面的に取り上げます。

都道府県庁の土木事務所で務めた経験が何の役に立つの?

  • 災害リスクのある場所で家を建築する場合、都道府県知事の許可が必要
  • 建築にあたっては、一定の防災工事が求められる
  • 私は2年間、その防災工事の許可事務を行っていた

不動産会社は土地を安く仕入れ、建物をつくって高く売るというのが基本です。

安く仕入れられても売れなければ意味がないため、不動産会社は土地購入を考える際、まず土地の調査から入ります。

あえて土地のリスクを説明せずに売ってしまう会社もあるのでは?

野放しではトラブルが絶えないことが容易に想定されるため、国も法律で説明を義務付けています。それが「重要事項説明」です。聞かれたことがある方も多いのではないでしょうか。

重要事項説明は

(重要事項の説明等)

第三十五条 宅地建物取引業者は、宅地若しくは建物の売買、交換若しくは貸借の相手方若しくは代理を依頼した者又は宅地建物取引業者が行う媒介に係る売買、交換若しくは貸借の各当事者(以下「宅地建物取引業者の相手方等」という。)に対して、その者が取得し、又は借りようとしている宅地又は建物に関し、その売買、交換又は貸借の契約が成立するまでの間に、宅地建物取引士をして、少なくとも次に掲げる事項について、これらの事項を記載した書面(第五号において図面を必要とするときは、図面)を交付して説明をさせなければならない。(以下略)

で義務付けられており、詳細は

(法第三十五条第一項第二号の法令に基づく制限)
第三条 法第三十五条第一項第二号の法令に基づく制限で政令で定めるものは、宅地又は建物の貸借の契約以外の契約については、次に掲げる法律の規定(これらの規定に基づく命令及び条例の規定を含む。)に基づく制限で当該宅地又は建物に係るもの及び都市計画法施行法(昭和四十三年法律第百一号)第三十八条第三項の規定により、なお従前の例によるものとされる緑地地域内における建築物又は土地に関する工事若しくは権利に関する制限(同法第二十六条及び第二十八条の規定により同法第三十八条第三項の規定の例によるものとされるものを含む。)で当該宅地又は建物に係るものとする。(以下略)

に記載されています。

不動産会社はお客に何をどう説明するべきなのか、法律で示されています。重要事項説明について、詳しくは後述しますが、この説明内容の「言った」「言わなかった」が原因のトラブルが多く発生しています。買う側もぜひ知識をつけておきましょう。

難しそうだし、たぶん大丈夫でしょ。。何かあったら国が補償してくれるんじゃない?

国の補償もあてにはなりません。大災害であればあるほど、一人一人を補償する程のお金が国にはないからです。

参考<東日本大震災時の国の補償>

倒産等で未払い賃金が発生したり、地震や津波により仕事中に被災したりした場合、補償が受けられますが、これらはマイナスをゼロに近づけるための補償で、そもそもプラスにはなりません。

災害援護資金といった生活再建のための貸付もありますが、あくまで貸付であること、所得制限がありそもそも受けられない可能性があること、3~5年の措置期間を過ぎた後は年3%の利子がつくこと、さらには最大でも350万円の貸付であること等、決してそれだけでは十分とはいえない内容です。

流れを整理すると、

国は災害時に被災者全員を十分な水準で補償する余裕がない

→基本的には自助

→一般の人がプロである不動産会社と売買契約を結ぶのは無理がある

→せめて法律で、災害リスク等の重要事項説明を不動産会社に義務付ける

→不動産会社は説明が必要な重要事項について、(その一部を)都道府県庁の土木事務所に確認する

ということになります。

私が2年間、不動産会社に、売りに出されている土地の重要事項説明(主に災害のリスク)について伝えてきたことを具体的にこれからお伝えします。

読み終えたころには、災害に対しての漠然とした不安や、持ち家を購入するべきかどうかの悩みが必ず和らいでいるはずです。

そもそも家は購入しない方が良い

話をひっくり返すようですが、そもそも家は購入しないのが基本です。お金に対する正しい知識を広める活動をしている両学長のサイトが非常に参考になります。

家は住むためのもの。マイホームを持つことで余計な心配を抱えるなら、買わないに越したことはありません。もし「家は買うもの」と無意識に感じている方がいたら、自分で自分を生きづらくしています。ぜひ「必要かどうか」で改めて判断してほしいです。世間の目なんか関係ありません。世間はあなたを幸せにしてくれないのですから。

持ち家比率推移

実際、一般的に富裕層と言われる方(ここでは世帯年収1000万円以上と定義)は賃貸を選ぶ方が少しずつ増えてきています(一方で、世帯年収1000万円未満の方の持ち家比率は上がってきています)。

マネーリテラシーが高いと思われる富裕層が賃貸へシフトしてきているのは、持ち家が割に合わないと考える人が増えてきている証拠だと思いませんか。

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※「2%くらい誤差でしょ」と思われる方もいるかもしれませんが、絶対数では、賃貸を選ぶ富裕層が2013年から2018年にかけて約1.1万世帯増えています。決して少なくない数字です。

それでも、マイホームが夢だから買いたい。。

そんな方は、これからお伝えするリスクをぜひ理解したうえで購入をご検討いただければと思います。

そもそも家は住むためのもの

→でも家が欲しい

→災害リスクに正しく向き合い、自分なら対応できる

→購入検討

幸せなはずのマイホームが、結果として不幸を作る原因とならないように。

災害時の補償について

さきほど東日本大震災時の国の補償についてお話ししましたが、ここでは、より一般的な災害時の補償についてお伝えします。

  • 役所が管理する道路に植えられている木々が台風で倒され、自宅を傷つける
  • 役所が管理する河川が大雨により氾濫し、自宅が浸水

結論から言えば、このような事例ですら、役所から補償されない場合があります。

役所の管理不十分のせいで被害を受けたのに、補償されないことなんてあるの?

ごもっともな意見だと思います。ただ、このような場合でも、想定外のレベルの災害による被害ならば、補償は義務ではないのです。

国による補償の根拠は、国家賠償法第二条によります。

国家賠償法第二条

道路、河川その他の公の営造物の設置又は管理に瑕疵があつたために他人に損害を生じたときは、国又は公共団体は、これを賠償する責に任ずる。

電子政府の総合窓口 e-GOV

ここのポイントは、「管理に瑕疵(かし)があったために」という点です。簡単に言うと、「防げたのに対策をとらなかった」という主旨になるかと思います。

これまで、災害が起きると、この法令を根拠に、役所に損害賠償を請求する裁判が繰り返し起きていますが、その際の判断材料が、その災害が予見できたか、回避できたか、といった点になっています。

ご参考まで、集中豪雨により発生した土石流が国道を運転していた車を襲い、運転手が亡くなった事例については、予見も回避も難しく、国の責任を1割認めるのみとなった判例もあります。

私は弁護士ではないですし、判例は時代とともに変わっていくものなので、これが絶対と言うつもりはありませんが、ここでは、役所管理のものですら、それが原因で被害にあったとしても賠償請求できない(つまり泣き寝入りする)可能性があることを知っていただきたかったため、あえて説明させていただきました。

その点、賃貸ならば、

  • 何かあれば引っ越せば良い
  • 何もなくても好きなところにいつでも引っ越せる
  • 会社から支給される住宅手当も、持ち家より賃貸の方が良かったりする(私の前職はそうでした)

以下で、さらに災害のリスクについて掘り下げます。

重要事項説明について詳細

冒頭で、重要事項説明について説明しましたが、ここでは、その詳細についてお話しします。

重要事項説明では、伝えるべき点は多くありますが、法律についていえば、一般的に下表のような法律について、該当するかどうかを説明する必要があります。

(国土交通省HP、国土交通省が示す重要事項説明の様式例より)

重要事項説明

この中で私が業務で携わってきた部分について、詳しく説明します。申し訳ありませんが、すべての法令については触れられませんので、その他は各自でお調べいただくか、所管の役所に問い合わせ頂ければと思います。ただ、以下を抑えるだけでも、災害リスクについての知識は格段にあがります。

◆「土砂災害防止対策推進法」

土砂災害防止法

「急傾斜地の崩壊」「地滑り」「土石流」といった可能性のある場所を指定する法律です。

平成11年に発生した広島の土砂災害を機につくられた法律で、命を守ることを最優先に、土地所有者に安全対策を義務付けるのではなく、災害が起きうる危険な場所を周知し、いざというときに住民が逃げられるようにすることを目的としています。

比較すると以下のようになります。

【これまで】・・・ハード対策

防災対策は、土地の所有者の責任

→災害リスクのある土地で工事をする際は、都道府県知事の許可が必要

→工事の際は、防災対策が求められる

(役所が私有地に防災対策をさせる強制力がないため、土地を持っているだけでは防災対策をとる義務はなし)

【法律の考え】・・・ソフト対策

これまでと状況は同じ。ただ、危険な土地がいつまでも減らない。。

といっても役所が私有地に防災対策を強制させるのは難しい。。

ならば、危険な土地を周知して、住民ならばいつでも避難できるように、

これから住もうと考えている人には判断材料にしてもらおう!

具体的に指定されている場所は、ネットで「都道府県名_土砂災害防止法」と検索頂くか、都道府県庁の土木事務所にお問い合わせ頂ければ見ることが出来ます。

もし購入を考えている土地が土砂災害の区域に指定されていなくても、巻き込まれる可能性もあるため、近くに指定地がないかは見ておいた方が良いです。

土砂災害区域の指定のあるなしにかかわらず、自分の土地が土砂崩れ等を起こし加害者となってしまった場合、自分がその賠償をする必要があります。役所は、私有地が原因の災害については何もすることが出来ません。

私も土木事務所勤務時代、「土砂災害区域が崩れて家が被害を負ったのだが、どこにいえば補償してくれるのか」といった問い合わせを多く受けてきましたが、役所は「土地の所有者に直接交渉してください」としか回答できません。

役所はあくまで役所が管理するものに原因がある場合に、補償をするだけです(その場合ですら、全部を補償するわけではないことはすでに触れた通りです)。

お役所的だ!住民を助けるのが役所の仕事ではないか!

そんな言葉も多数いただきましたが、役所の補償とはいわば税金です。税金をかけて、危険な土地の所有者を援助するというのもまた少し違うと考えます。基本的には、土地所有者がその安全責任を負うべきです。そうでないと、管理責任がなくなり、より一層、危険な土地が広がる一方です。

この件については様々なご意見があると思いますが。。現実を知っていただきたくて書きました。

参考まで、実際に、2018年に広島で起きた土砂災害は、その7割が、指定された場所で起きており、下の記事の文中にもある通り、まさに「起こりうるところで土砂災害の犠牲者が出ている」と言えます。ぜひ知っていただいて損はない法律です。

もう少し詳しく知りたい方は、以下の国土交通省HPをご覧ください。

砂防三法(「砂防法」「地すべり等防止法」「急傾斜地法」)

国のHPで分かりやすい図などがなかったので、参考になるサイトを紹介します。

これらの法律も、土砂災害を防ぐための法律です。さきほどの土砂災害防止法との違いは、上のサイトにもありますが、目的の違いです。土砂災害防止法が住民周知のためのソフト対策であったのに対し、砂防三法は、土地所有者へのハード対策を目的としています。

土砂災害が発生しやすい場所を広範囲で役所が指定し、その場所で建設等の工事をする場合は、所定の安全対策をしない限り、認めないといったものです(何かしらの行為をしない限り、土地を持っているだけでは安全対策をする義務はないので注意)。

砂防三法の指定地も、ネット検索か、都道府県庁の土木事務所で問い合わせればわかります。

マイホーム購入者の目線で言うと、これらの法律の規制がある場所だと、建築に想定以上の工事が必要となり工事費が高くなるおそれがあることなどが挙げられます。

「河川法」「特定都市河川浸水被害対策法」

災害に関する法律ではありませんが、河川についても、知っておくと良いです。

河川には、ざっくり分けて、築堤河川と掘込河川があります。

京都府のHPにわかりやすい図があったので、ご覧ください。

記載の通り、「築堤構造」の河川では「堀込構造」の河川に比べて、堤防の決壊による水害の危険性が大きくなります。

マイホーム購入者の目線で言うと、近くに河川がある場合、当該地が河川の堤防より高い位置にあるかどうかを見ておくと良いです。ハザードマップにも浸水被害の想定レベルの記載がありますが、根拠としてはこの河川の構造が影響しています。

近くの河川がどちらの構造にあたるかわからない場合は、「河川名_管理者」と検索し、問い合わせてみてください。

同じく河川の「特定都市河川浸水被害対策法」もぜひ調べてください。

概要としては、以下にあげる国交省の資料にもある通り、主に都市型の水害に関連する法律です。もともと雨が降っても地面に浸透していた水が、急激な市街化でコンクリートが急増したことに伴い、河川に大量に流れ、結果的に浸水してしまうことが都心部で発生するようになりました。法律上は、当該地での大規模な工事等をする場合、しっかりと雨水を処理できる施設をつくるよう義務付けています。

マイホーム購入者の目線で言うと、同法が指定する場所は、通常の場所に比べ、浸水の被害が起きやすい場所と知ることが出来ます。

こちらも、ネットで検索頂くか、都道府県庁の土木事務所にお尋ね頂ければわかります。

結論:基本は賃貸。リスクを背負えるなら持ち家の検討を

以上、様々な災害リスクについて触れてきました。

私は、持ち家の購入を否定するわけではありません。

せっかくマイホームを買うならば、自然災害が原因で不幸になってほしくない。その思いで、ひたすらリスクを挙げてきました。ぜひリスクを正しく知ったうえで購入を検討してほしいと思います。

持ち家についてリスクばかり挙げてきましたが、住宅ローンについては救いがある場合がありますので、最後に触れておきます。

住宅ローンについて徹底的に検証されているブログです。この記事の中に、「自然災害債務整理ガイドライン」なるものが紹介されています。大災害時は、ブラックリストに載ることなく、住宅ローンを減額・免除できる方法が使える場合があります。ぜひ住宅ローンを組む前に、一読をおススメします。

参考に、同ガイドラインがこれまで対象となった自然災害の一覧も掲載します。2019年の台風19号もさっそく対象になっています。

少し余談になりますが、「金持ちが良いところに住み、貧乏人はその割を食らっている」といったような意見を耳にすることがあります。ただ、これは必ずしも正しくないと思います。

家は、買う義務なんてないからです。

比較的安全とされる土地は、需要があるため、価格も高いです。もし家を買う義務があるのであれば、一般人は、圧倒的に不利です。

ただ、そんな決まりはありません。

日本の「持ち家信仰」「新築信仰」が、日々の生活を窮屈にしています。富裕層が賃貸にシフトしつつあることはすでに述べました。

基本、賃貸が良いんです。

空き家が年々増えてきています。予算上、マイホームなら相応のリスクを背負わなければいけない場合も、賃貸なら見合った予算でいくらでも探せます。

そもそも、災害にあっても引っ越せば良いので大きなダメージはありません。「生涯家賃がかかるなら持ち家の方が良い」という意見もありますが、

持ち家も定期的に修繕が必要ですし、そもそも上記であげた災害のリスクもあります。損得なんて、最後になってみないとわかりません。

マイホームを購入されるなら、「災害のリスクも少なそうだし、万が一被害にあってもこうすれば良い」といったことまで考えられたら良いですね。

幸せは相対的なものではありません。持ち家じゃなきゃ不幸なんてありません。

改めて、なぜ家を買うのか、考えてみてください。

人の目を気にせず、ぜひ自分にあった判断を。

この記事が少しでもマイホーム購入の一助になれば幸いです。